大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 昭和35年(ワ)251号 判決

原告 俵田佐 外二名

被告 国

訴訟代理人 小林定人 外六名

主文

原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、原告等が本件免職処分当時別表(一)記載の郵政省職員として被告に雇傭されていたこと、原告等がその主張の日時に定員法により本件免職処分を受けたことは当事者間に争いがない。

二、先ず原告俵田の請求について判断する。

同人が免職処分をうけた後である昭和二六年四月二三日の山口市議会議員選挙に立候補して以来その後三回に亘つて同市議会議員に立候補していることは当事者間に争いがなく、従つて同原告に対する本件免職処分が無効であるとしても、同原告は右昭和二六年の山口市議会議員選挙立侯補届出の日に公職選挙法第八九条、第九〇条により公務員を辞したものとみなされるところ、同原告の本訴請求はすでにその身分を失つている公務員の現在の地位の確認と公務員の身分を喪失した後である昭和三五年一一月分の俸給の支払を求めるものであるからその余の点について判断するまでもなく失当である。

三、次に原告国広の請求について判断する。

〈証拠省略〉の結果によれば、原告国広は昭和二六年四月一一日広島高等裁判所において昭和二一年勅令第三一一号違反被告事件により懲役六月、二年間執行猶予の判決の言渡をうけ、右判決はそのころ確定したことが認められ、従つて同原告に対する本件免職処分が無効であるとしても、同原告は国家公務員法第三八条第二号、第七六条により右判決確定の日に当然失職しており、同原告の本訴請求も原告俵田のそれと同様に失当である。

四、進んで原告富田の請求について判断する。

先ず同原告は定員法の違憲を主張するが、同法が当時我が国を占領していた連合国軍最高司令官の慫慂にかかる所謂経済安定九原則に基づき我が国の経済の急速な再建のためやむを得ない臨時の緊急政策の一環として制定されたことは公知の事実であつて、これら当時の立法の経過と、大量整理の迅速な実行の必要性に照らすと、原告等主張のように、同法が不利益処分審査請求権を剥奪している点その他に、労働基本権の立場から種々の問題を含んでいることは否めないにしても、被告主張の最高裁判所の各判例の示すとおり未だ同法を以て憲法違反とまで判断することはできないと解すべきである。

次に〈証拠省略〉によれば、当時、郵政、電気通信当局は定員法による過員整理について「整理の方針について」と称する文書を発表していること、これによると右整理は「公務員としての資質次いでは事業の再建上必要とされる職員の技能、知識、肉体的諸条件特に通信事業の業務に対する協力の程度」を判定して下位の人を整理し、特に「事業に対する協力の程度」を重視し「たとえ能力、知識の程度が高くても通信事業の正常な運営を阻害する行為に出たり、自ら行わなくてもこれを共謀したり、そそのかしたりあおつたりして同様な結果を招くと認められる者」を優先的に整理し「その具体的認定の方法は地方にあつては各郵政局長、各地方監察局長及び電気通信局長の認定に一任されている」こと、「前述した方法によつて優劣をつけ難い場合」には勤続年数短かく勤務成績良好でない者をも整理の対象」とするものであることが認められる。ところで定員法による過員整理に当り何人を免職するかについては大量の人員整理の必要から制定せられた同法の趣旨に照らすと本来任命権者たる当該行政庁が広く一般人事行政の諸要請を洩れなく考慮した総合判断にもとづく自由裁量によつて決定しうるものと解せられるけれども同法は国家公務員法第七八条第四号及び人事院規則一一-〇(特に第四項参照)に規定する定員の改廃のための免職処分であるから国家公務員法第二七条に定める平等取扱の原則及び同法第九八条第三項に違反することが許されないことはもとより整理に当つて一般に発表せられた整理基準は、単に内部的処理の助言というにとどまらず、行政整理に籍口し不公正な恣意的取扱をしない旨職員側に保障した趣旨をも含むと解される以上これに該当しないことが明らかな処分は裁量権の濫用として無効と解せざるを得ない。

そこで原告富田が右の整理方針に定められた被整理者の基準に該当するとされた点に違法の点があるか否かについて判断する。

〈証拠省略〉を総合すると、当時全逓労使双方間の協約によると特にその旨の承認がないかぎり勤務時間内における組合活動を禁ぜられていたのにかかわらず一時は殆んど連日のように勤務時間中、同原告等が中心となり十名内外の多衆をたのんで課長の許に押しかけ、その健康を害する程激しい集団抗議をするなど無秩序ないわゆる立寄り交渉を繰り返していたこと、昭和二三年七月一一日山口郵便局郵便課内勤職員が職場大会を開き同課職員の増員要求を達成するため同課職員の配置換を行い、小包業務担当の職員を一方的に他の部門に配置し、小包業務の取扱を停止することを決議し、翌一二日から同月二一日まで右決議を実行したこと、原告富田は当時同課職員であつて右の争議行為を首唱した原告国弘に協力し、取扱を停止する部門を小包業務とすることを提案する等右決議およびその実行に当り積極的役割を演じたことが認められる。右争議行為は正式に組合の機関決定を経たものでなくその上当時現業公務員の争議行為は冷却期間を置かねばならぬ制約を受けていたのに、当時の労働関係調整法第八条、第三七条による手続を履んでなされたものでないことが前記証拠上明らかであり、その手段態様に照らし正当なものとは認め難い。まだ、右各証拠によると、当時の労働状勢は社会経済の不安定を反映し未だ近代的労使関係の在り方に程遠く、庁舎の内外に個人誹謗的な激越なビラをはりめぐらし、勤務時間中に無断で離席して組合活動に従事するなどの行き過ぎがあつたことが窺われ、これについての同原告の責任は証拠上否定できないところとみられる。これら諸般の日常の勤務態度を将来の業務運営の在り方から綜合判定の上、同原告は事業に対する非協力者として前記整理方針の被整理者の基準に該当するものとされたことは定員法施行当時の社会情勢に鑑み事情やむを得なかつたものと解せられ、同原告に対する本件免職処分に重大明白な瑕疵ないし裁量権の濫用があつたものとはいえない。

同原告は同人が日本共産党員で労働運動を推進していたので労働組合の闘争力を減殺するため定員法に名を籍りて免職されたと主張し、証人安田八郎の証言によれば山口郵便局関係の定員法による免職者一四名のうち一一名までが日本共産党員であつたことが認められるけれども、同党員中に非協力者と見られるものが多かつたに過ぎないとも解され、右事実から直ち右に原告主張事実を認めることはできないし、〈証拠省略〉中右原告主張に副うかのような部分は単なる伝聞ないし推測に過ぎず他に右原告主張事実を認めるのにたりる証拠はない。

五、よつて原告等の本訴請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡村旦 鈴木醇一 竹重誠夫)

別表(一)(二)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例